デザインプロセス 3次元化のススメ

モノづくりの3次元化と言われ、すでに20年以上がたちました。
特に最近になってからは、安価な3次元CADの普及により、製造業はもとよりデザインの3次元化が急速に進んできています。
将来、デザイナーのモノづくりが革新的な発展を遂げるためには、この3次元のデザイン環境を活用した新たなモノづくりの手法やしくみを構築する必要が出てきています。
3次元CADは、品質向上や精度の向上、作業効率の向上の手法としても活用されています。そして、こうした3次元化というデザイン手法の変化が、モノづくりのプロセスの変革だけではなく、それに伴いデザイナーのありかたまで変えようとしているのです。ここでは、私が代表を勤めるアイシーアイデザイン研究所の3次元CADとの付き合いから、3次元CADがデザイナーの仕事をどう変えていったかを解説していきたいと思います。

目次>
1 海外との付き合いが3次元導入のきっかけに

2 デザインプロセスイノベーション

3 なぜ3次元CADでデザインを始めたのか

・迅速にかわる市場への対応 金型発注直前までデザイン検討ができる
・フロントローディングができる
・シミュレーションができる
・統合的な視野にたってものづくりがすすめられる

4 まとめ
ものづくりディレクターとしてのデザイナー

 

海外との付き合いが3次元導入のきっかけに

アイシーアイデザイン研究所が、3次元CADを導入したのは1998年です。
3次元CADを導入する前はCGでのプレゼンテーションや、2次元の図面で形状を指示するなどしてデザイン作業をしていました。独立当初からハイエンドCADの導入を検討していましたが、価格・教育の点からなかなか導入に踏み切れませんでした。ハイエンドCADは購入費用が数百万円以上し、それに保守契約などをいれると年間に必要な費用は膨大な金額となります。個人事務所では、なかなか手のでない金額でした。
こうした状況が長く続く中、98年に、低価格で教育時間が少なくて使えるミッドレンジCAD SolidWorksに出会い、3次元CADの導入を始めたのです。
導入へのきっかけは、価格や使いやすさからだけではありません。海外との仕事をしていくうえで必要にかられたこともあげられます。日本国内であれば、あうんの呼吸でこちらの意図をくみとってモデルでも製品でもつくることができます。しかし海外との仕事であれば、もうすこし滑らかにとか、○○風になどと言う説明は通 用しません。微妙なラインであってもきちんとした図面やモデルで指示することが求められます。しかし修正の度に図面 やモデルの指示をしていたのでは時間がかかりすぎます。このとき、2次元図面 でのデザイン引渡しに限界を感じ、3次元CADの導入を決意したのです。
現在、アイ・シー・アイデザイン研究所ではSolidWorksを中心にした3次元のデジタルデザイン環境を構築しています。多くのミッドレンジCADの中からSolidWorksを選んだのは、短時間で直感的にイメージをつくれる柔軟な操作性、ソリッドとサーフェースの編集ができること、データ互換性など機能の高さがあげられます。また、個人事務所ですので、サポート体制が充実していることも重視し、導入を決定しました。

デザインプロセスイノベーション

モノづくりのプロセス全体を考えた場合、「3次元CADを導入した」だけであればメリットはほとんどありません。
それどころか3次元CADのデータ作成やイメージレンダリングに時間をかけ過ぎるあまり、デザイナーが本来行うべき「デザイン検討」が疎かになり「デザイン品質の低下を招く」という迷路に迷い込む危険性があります。
3次元CADを導入して効果を上げるには、作業プロセスだけでなくデジタル化された環境での思考方法や思考手順に変革することが必要不可欠です。従来の直列的なモノづくりの流れを並列的なやり方に変えるなどの工程の変革と、デザイナーがモノづくりのどの部分まで携わるのか役割と責任の検討が必要となるのです。

3次元化以前のものづくりプロセス

これまでのモノづくりの流れはどのようなものだったのでしょうか。
経営会議や企画会議で決定された企画案に沿ってアイデアが創想され、2次元のスケッチなどで視覚化します。
デザイン検討がされると、意匠の引継ぎが行われ、設計者が3次元CADで製品設計をします。技術的な問題がないかなどの製品化の検討は設計後に実施され、解析は金型や製造の問題があった場合にのみ行い、問題解決方法の検討に使用される。
これが従来のモノづくりプロセスです。

この工程は一見無駄のない流れに見えます。しかしながら、設計段階でモデルを3次元化すると、様々な問題が出てきます。設計者からデザイナーへの手戻しが起きることも珍しくはありません。 デザイナーからの意匠引継ぎ図をもとに設計者が形状を3次元化するとします。そこで起こるのは、デザイン承認された形状では内部機構部品と外装が干渉したり、デザイン図面 の指示通りに3次元化すると面と面がつながらない、形状に矛盾があるなど数々の問題です。
この問題を解決するにはデザイナーと設計者との調整に多くの時間と手間が必要となります。しかし、製品発売日の延期は許されません。検討や調整に充分な時間を取ることも出来ないまま、不完全な形状で妥協することも少なくありません。

なぜこのような問題が起きるのでしょうか。「モノづくり過程で手法の変化への対応」が出来ていないからです。モノづくり過程や製品開発への意識は3次元化以前のままで各工程に3次元CADを導入したため、製品開発過程全体がうまく動かなくなっているのです。
デザインは2次元のままで設計が3次元データをおこす場合に起こる問題解決策の1つが、デザインから設計へ形状の詳細は規定せずにあいまいな状況で引き継ぎ、形状の詳細については設計上の成り行きとすることです。ただ、最終形状は設計者にまかすことになりますので製品のデザイン完成度が下がる恐れは残ります

 

3次元化後のものづくりプロセス

3次元で変わる物作りの流れ 一方、理想的な3次元の設計プロセスとはどのようなものでしょうか。その流れを5つの段階に分けて説明します。

第1段階:機構情報の共有

製品開発に関わるすべての担当者(デザイン、設計、製造、資材調達、品質管理部門など)が集まり、製品開発の協議を行います。すべての担当者は、商品企画の確認および製品についての機構情報など情報を共有します。3次元化されたモノづくり過程では、デザイナーがアイデアを出す前に設計者や製造担当者と製品の概要(構造や設計的、技術的な制約条件)の情報交換する。それぞれの段階が同時平行して進むためすべての担当者が同等の情報を共有し、共創することが最も重要です。

第2段階:アイデア展開

アイデア展開期においては、デザイナーは3次元CADとスケッチの利点をうまく使い分けることが重要です。ただ、少なくとも方向性がきまりデザインを具体化する際には、3次元データ化を手際よく並行させるのが新時代のデザインプロセスです。3次元CADをうまくつかえば、これまで4人でしなければならなかった仕事を1人でこなせます。後工程での問題を3次元なら事前に処理できるからです。構造部品との関係(干渉していないかなど)や製品のシミュレーションを行い、素材や加工方法を検討しつつ3次元CADを使って確認しながら製品デザインの完成度を高めていきます。

第3段階:デザインレビュー(プレゼンテーション)

デザインレビューではデザインや設計、製造、品質管理、資材などモノづくりに関わるすべての担当者が集まり、製品について協議を行います。このデザインレビューは形状の審美性や斬新性などデザインの視点から製品形状を確認するだけではなく、3次元モデルを確認しながら内部部品と外形形状の関係性や製造性、メンテナンス性、リサイクル性など製品製造にかかわる点もあわせて検討します。問題点が発見されればその場で修正、確認することも3次元モデルでは可能です。この段階で製品製造に関わる問題点をいかに多く抽出し、製品設計に反映できるかどうかにより製品の品質・完成度に大きな差がでてきます。

第4段階:構想設計、製品機構設計

デザイナーがデザイン品質を保ちつつ外装設計を行います。デザインレビューで抽出された問題点を機構設計者や金型製造などの担当者と協議し、解決し、製品の品質向上につとめます。

第5段階:商品化会議/金型直前変更

私は3次元化の新しいプロセスとして金型手配直前の商品化確認会議を推進しています。
現在は、デザイナー自身が3次元CADを使うことで、金型にはいる直前までスタイリングの変更を行えるようになっています。仮想デザインモデルでコンセプトに対してどのような方向の製品を開発するのかの目的を認識し設計がはじまります。
例えば、全体の開発を6ヵ月とすると生産準備にはいるまでに4ヵ月かかります。生産準備段階まで平行してマーケティングをすすめ、金型や生産準備の直前でもう一度スタイリングについての会議をもち、マーケティング結果と併せスタイリングを検討するのです。
こうすることで、直前でスタイリングを見直せるようになり、市場動向に素早く対応できるようになります。 商品により異なりますが、商品寿命の短い商品や競争他社商品に影響されやすい商品でこの手法を実施すると効果がありました。開発期間が数ヶ月から1年にわたる場合、開発当初のデザインでは商品付加価値や競争力が下がる場合があります。それを是正するためのプロセスです。
既に内部部品との関係性や設計が終了しているので、再検討するのは外装部分のみです。意見を反映し迅速に形状の修正を行う。
これは3DCADの最大の効果といえます。

 

なぜ3次元CADでデザインをはじめたのか

三次元化でデザインすることは非常に多くの利点があります。
そこで、ものづくり過程の上流工程である企画・デザインからの3次元化、デザインプロセスの三次元化にどのような利点があるかを詳しくまとめてみました。

1- 迅速に変わる市場への対応
金型直前までのデザイン検討ができる。

急激に変化するこの時代に成功を収め成長している企業は、市場のチャンスを見極め、迅速に対応すると同時に、次のチャンスに向かって動くことが出来ます企業です。
三次元化は、時代に迅速に対応できる環境、斬新なコンセプトの製品を創出できる環境を整えました。デザインを含めた製造工程全体の時間短縮、効率向上がなされ市場動向に素早く対応した商品開発が可能になりました。

●デザインから金型までのデータの一元化
●仮想製品によるシミュレーション
●デザインを含めた製造工程全体の時間短縮、効率向上
●2~3時間でRPモデルができる。
●顧客イメージ調査を行い、金型作成直前であっても意匠の部分を迅速に変更する。

また迅速に対応するには外形デザインをデザイナー自身が行うことが不可欠です。
三次元CADによりデザイナー自身が製品デザインを行えるからこそ、ニーズにあった斬新なデザインを生み出すことができます。設計的な問題(機構、構造、ハード面 )が解決された後の外形変更は数日で可能です。市場動向を迅速に捉え、斬新にデザインを変更する。三次元化の大きなメリットであると考えています。

2-フロントローディング

上流工程のデザインプロセスの3D化によりラフデザインの段階から各部門の担当者が集まり製品検討を行うことができるようになりました。
従来の方法では、ものづくりの下流に問題抽出、解決の負荷が集中していました。上流工程のデザインプロセスの3D化により問題抽出、解決を上流のデザインに移動させることができるようになります。

デザイン段階で確認すること
1)開発・マーケティングと共同して、目標目的を明確化する。
2)問題抽出とシミュレーション
3)商品ライフサイクルの最適化
4)情報の伝達方法、組織との関係、データの受渡し方法などを確認する
デザイン段階でものづくりの検討を行うことは、ものづくり工程全体を順調にすすめることにつながります。早い段階から問題抽出されることで作業の効率向上や後工程での設計変更を回避できるようになります。デザイン段階に多角的な視点から検討を行うことで製品発売日を遅らせることなく多くの問題を解決し他社製品と差別 化された製品を発売することができるようになります。

3-シミュレーションができる

デザイン過程は、モルモット的な過程と考えています。
様々な視点をもって意匠と製造の両面から検討し解決することが求められるからです。
いいかえれば、ものづくり過程でおきる問題を浮き彫りにするための段階だとも言えます。

デザイナーは、3Dモデルが出来た段階でどこにウエルドがでるか、成形上問題がないかなどを解析します。問題があるようであればデザイン変更を行うことを繰り返します。そして問題が解決されると光造形でモデルをつくります。モデルで問題が見つかれば再度つくりなおします。
解析の情報を得ることで設計段階や金型試作時に発見されていた問題が早期に発見され、解析を活用することで試作や量 産で確認する前に簡単に形状検討ができるようになり試行錯誤の少ない開発過程となります。また、デザイン段階で多くの検討、シミュレーションを行うことで製品精度、完成度の向上につながります。
また、製品のコストシミュレーションもできるようになりました。3次元モデルがあれば、ものづくりの上流工程であるデザイン過程から製品の体積や容量 が簡単に求められます。体積や容量に材料単価をあてればおのずと製品コストがはじき出されます。 デザイン段階から3次元モデルを活用し、様々なシミュレーションを行うことは、結果 として、製品性能や品質向上を実現し、市場導入時期での成功率を向上させます。

4-総合的視野にたってものづくりができる

製品の保守、リサイクル・リデュ-スなどプロダクトライフサイクル全体を見つめた検討がデザイン段階からできるようになります。これは地球環境保全を意識した製品を造るためには不可欠であるといえます。
ものづくり工程の最初に位置し、「はじめに終わりを考える」モノの誕生から終焉(廃棄)までを決める重要なプロセスです。3次元CADのデータであれば製品全体を視覚的に確認でき問題点をみつけやすくなります。任意の場所での製品切断、部品ごとに確認したりすることもできます。また製品の組立や発売後の経年変化など時間経過を組込んだシミュレーションをすることも可能です。

 

デザイナーはモノづくりのディレクター

これからのモノづくりにおいては、デザイナーが新しいものを発想し、形状化するときにモノづくりが成功するかどうかが決まるといっても過言ではありません。
モノづくりの最初に携わるデザイナーがモノづくり全体をみまわし、後工程まで配慮してかたちづくることは失敗しないモノづくりの実現には欠かせないからです。
3次元化によるデータの一元化が行われるようになると、デザイナーが素材、構造、環境への配慮を意識しデザインすること必要となります。開発の最初に関与するデザイナーが後工程まで配慮することは、失敗しないモノづくりの実現には欠かせません。設計上で問題が起こりそうな部分のクローズアップをする。製造上技術的に難しい部分があれば、修正できる可能性を残しておく。どういう材料をつかってどんな形にすれば機能と性能がよくなるか、造りやすくなるを知っていることが求められます。
さらにデザイナーには、文化的な側面(デザインやインターフェース)と技術的な側面 (材料、構造、ものの造り方など)の幅広い知識が求められています。アイデア段階から3次元CADデータを共有し、構造や機構の問題がないかなど関係部門からフィードバックを受けながら検討を行い、よりよいモノづくりを行えるように異業種との積極的な交流による問題解決をはかるコーディネーター的な役割も求められます。構造や機構上の問題を、かたちを発想したデザイナー自身が解決できればスタイリングの品質を維持したまま製品を完成させることができます。高付加価値な製品を生み出すことができるようになります。

クリストファー・ロレンツは著書「デザインマインドカンパニー(The Design , 1990)」の中でこう述べています。
「IDデザイナーは、技術と消費者の双方に直接接触できることができる唯一の人間だ。彼等は、製品マネジャーやその他のさまざまな調整役が導入されても、コンセプトから市場導入まで、すべての開発と生産プロセスを通 じて新製品に関わるただ一人の人間である。」

ロレンツの言葉にもあるように、デザイナーは消費者と製造をつなぐ掛け橋であり、製品のすべてに通じる者なのです。

デザインに3次元CADが導入され、デザイナーがモノづくりの上流工程から下流工程まで携われる環境が整ってきています。デザイナー自身が描いた3次元モデルで金型まで進行することができ、デザイナーが想い描いたイメージ通 りの製品を作ることが可能になりました。そして今までは設計者が担っていた外装設計に対する責任、製品コストの意識、環境への配慮(例えば、メンテナンス性、資源の廃棄量 、素材決定の責任、部品の再使用)といった問題を、デザイナーが解決し決定しなければなりません。責任範囲の拡大は、デザイナーの職域を拡大させているのです。

分業化や専門化が進み、大勢の開発スタッフが同時期に並行的に作業を行うコンカレント開発では、モノづくり全体を見渡しデザインから金型・製品製造まで一貫して担当する「ディレクター」としての役割が必要となります。
デザイナーは、カタチや色、素材、仕上げ、その他ソフトウェアの価値をデザインするだけではなく、製造、生産管理などの工程まで携わり、多くのスタッフ達と高度に共有してプロジェクトをすすめる役割をになうようになってきています。そうした開発環境においては、デザイナーが3次元CADをツールとして活用し、3次元データをモノづくりの共通 言語化し、各部門と情報をシェアする方向に向かうことを今後さけて通るわけにはいきません。

製品開発過程でデザイナーがいつまでもデザインの1領域である「スタイリング」の部分だけに目を向け、保守的な技法による創造行為に固執したり、モノづくり全体の中の「デザイン」段階だけに携わっているようでは、将来デザイナーの存在意義が問われることになるでしょう。
製品開発においてデザインの価値をより発揮しようとするのであれば、もう1度デザインの本質、デザイナーの役割を自らに問い直す必要があると感じています。

 

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