循環型社会の実現と環境配慮型設計のポイント

周知の通り、人類を取り巻く地球環境は悪化の一途をたどっている。
1962年にレイチェル・カーソンがはじめて環境問題についての書籍「沈黙の春」を出版してから40年が経過したが、未だにその対策は充分とは言えない。
 [沈黙の春]
レイチェル・カーソン 青樹簗一・訳
われわれが工業製品設計に環境配慮を行う理由として、われわれの子孫により良い自然資産を残すためであり、かつその自然資産は有限であり、そしてその資源をリサイクルしていくことが現在のわれわれに課された使命であると考えるからである。
循環型社会という考え方は、より地球に負担のかからないシステム構造である。

ヨーロッパでは比較的早期に環境問題についての意識が高まった。
ドイツの自動車メ-カー、BMWのリサイクルシステムは1970年頃から始まっており、今ではBMW車のパーツの70%以上がリサイクルされている。このように欧州では、リユースを前提とした材料の使い方が定着してきている。

これに対して、日本では使用者が最終的に埋立処分や適正処分することを想定したモノ作りが行われてきたが、遅ればせながら、ようやくプルサーマルやマテリアルのリサイクル(Recycle)、製品と部品のリユース(Reuse)、そして省資源化、長寿命化、リペアといったリデュース(Reduce)3Rを志向したモノ作りが始まろうとしている。
3Rのうち、リサイクルに関しては、材料面 でリサイクル可能なモノを選定すること、使用材の種類を少なくすること、材料を明記すること、リサイクルしやすい加工をすることなどが重要であり、構造面 でも分離・解体しやすいことが求められている。

リユースに関しては、汚れにくい材料や掃除しやすい構造であることが重要であり、加えて部品の共有化や残存寿命の明確化といったことも求められている。

リデュースに関しては、製品の長寿命化や省資源化のための材料・構造の工夫が求められている。この3Rの中でデザイナーの関与度合が高いのはリデュースである。
今後われわれがデザインやモノ作りを行う際には、常にこの3Rを意識してゆく必要がある。環境配慮型設計とは、「製品のライフサイクルを通 じて環境負荷の少ない製品を製造するための設計」と言え、この実践のためには、LCA(ライフサイクルアセスメント)が必要となってくる。
現在のところわが国ではまだ国レベルでの規範は充分に確立されておらず、企業内で個別 の規範が策定され、遵守されているのが実情だ。

この環境配慮型設計には、材料を考慮した設計、分解性を考慮した設計、メンテナンス適合設計、公害防止といった4つのポイントがある。(図2:環境配慮型設計とは)これらのポイントを徹底してゆけば、メンテナンス性が向上することでリサイクル性が向上し、長寿命化することで資源の廃棄量 削減が実現されるのである。
>環境配慮型設計に3次元CADを用いるメリット
次に環境配慮型設計をする際に3次元CADを用いるポイントについて述べる。
ここでは3次元CADの活用とその目的、知的財産の共有、さらに情報ネットワークといった点が3つのポイントとなる。
そもそも3次元CADを用いる基本的な理由としては、部品接合において、部品の接合などの際に、ボルトやビスナットなどでの締付けと同等の効果 を持つスナップフィットでの接合を行おうとすると3次元での確認が必要と成る。2次元では、部品の関係性を確認するのは非常にむずかしい。しかも曲面 のあわせや、部品の構成による結合を考える時2次元を見ながら頭の中で3次元を想像するので、特にむずかしい。その点3次元CADであれば、視覚的に部品を構成することができる。部品嵌合やはめ込み具合なども確認できる。
他に3次元CADを活用する目的としては、最適設計がおこなえること、上流の段階で構造解析・機構解析・流動解析などの解析シミュレーションができること、またCADデータで試作(STL・CAM)時間が短縮できること、同時に2D図面 が得られることなどである。
従来のモノ作りは、デザイナーはスケッチを描き、そのスケッチをもとに設計者が3次元CADや2次元CADを用いて設計を行ってきた。その際も、解析は別 途行われることが多かった。その結果、設計段階で内部部品との干渉や金型製造上の問題が見つかった場合にデザイナーと設計者の意見の調整ができず、デザインを最初からやりなおすか設計のしめす方向を取らざるをえなかった。
また、3次元CADを用いたシステムでは、知恵、経験、技能、技などといった個人の「暗黙知」に客観性を持たせ、マニュアル化し、知識として共有する「形式知」に変換することができ、それを会社全体の知的財産として共有できる。実際、われわれの事務所のCADの中には、これまでのさまざまなアイデアと情報がデータライブラリ化されている。例えば、嵌合などのトラブルがあった時には、金型を修正することなく成型時に対処する方法など。あわせて、常日頃、材料・製造・金型の各メーカーとのコミュニケーションを深めて得た情報をデータベースに加えておけば、未知の素材に出会ったときでも、必要に応じて関連情報を取り出すことができる。さらに、学識経験者や加工メーカーなどとのコミュニケーションも広げておけば、その素材に対してどのような解析をしたらいいのかといった問題にも迅速に対処することができる。3次元CADを用いたモノ作りネットワークを構築し、そしてその情報ネットワークをできるだけ広く持つことが重要なのだ。
新しいビジネスを生む3次元化への課題と問題点
これは私の評価だが、上流から3次元CADを導入することで、作業効率が飛躍的に上がった。手描きスケッチと2次元データの環境にかかる時間を100%とすると、3次元CGと3次元CADの環境で80%程度、さらにアイデア段階から3次元CADの環境では、40~60%に作業時間が短縮され、非常に大きな効果 が得られた。
しかし、実際に3次元化をすすめると様々な課題と問題点が存在した。

1.デザインプロセスを変えなければならないこと
2.コラボレーション
3.エンジニアリングに対する知識
である。

 第1ついては3次元CADにあわせたモノ作りプロセスの最適化が問題となった。
従来デザイナーから設計者へと引き継ぐ形でのプロセスでは3次元CADの効果 は薄いと感じた。そこで、デザイナーがアイデアを創出する前に設計者とおおまかな構造や設計的な条件を打合せし、デザインを進行した。一方で設計者は、機構設計や電気設計を同時に進行した。双方向にデータをやりとりすることで、デザインを再検討する時間が減り、アイデア創出に時間をとることができるようになった。また、おおまかな外観デザインができた段階から解析を行い問題がないかを検証することができた。

第2
のコラボレーションについては、現実的にはまだまだ難しいと感じている。
フリーランスの立場であるので相手企業とのデータ交換がネックとなっている。そのため、必ずデザインに入る前に依頼企業からどのようなデータが送られるのかを確認している。同じ形式のデータであってもデータ加工が不可能な場合もある。場合によっては、プラットフォーム的なソフトを介在させる必要もある。単に形状が確認できるデータが得られれば良いだけではなく、その後の工程も考えて全体のデータ環境のチェックが非常に重要なポイントになってくる。スタンダードなデータ形式の確立、変換ソフトの習熟、低容量 で簡単に形状を確認できる高速ビューワ-が必要である。

第3のエンジニアリングに対する知識についてはデザイナーが3次元CADを使い設計が行えるようになった環境では、デザイナー自身に設計の知識が求められる。技術者と自由に意見交換できることが重要である。そのため技術的なコラボレーションや、素材、加工、設計に対するデザイナーの知識の向上も重要な課題である。デザインを実現するためにデザイナーがより積極的に設計へのアイデアも提供することも必要となっている。 求められる これからのデザイナー像
言うまでもなくデザイナーの本分は美しい製品を作り出すことである。
何年たっても支持されつづけるモノを提供しなければならない。廃棄して新しいモノを購入するよりも、リペアして使い続けたいと思うモノ、何年たっても古いと感じさせないモノが求められる。
3次元CADの導入によりデザイナーがモノ作りの上流工程から下流工程まで携わることが可能になった。デザイナー自身が描いた3次元モデルによって金型まで進行するのでイメージ通 りの製品を作ることが可能になった一方、今までは設計者にまかせていた外装設計に対する責任、製品コストの意識、環境への配慮(例えば、メンテナンス性、資源の廃棄量 、素材決定の責任、部品の再使用)といった問題を、デザイナーが解決しなければならなくなった。責任範囲の拡大は、後々利益として戻ってくるのである。
クリストファー・ローレンツはこう述べている。
「IDデザイナーは、技術と消費者の双方に直接接触することができる唯一の人間だ。彼らは、製品マネージャーやその他さまざまな調整役が導入されても、コンセプトから市場導入まで、全ての開発と生産プロセスを通 じて新製品に関わるただ1人の人間だ。」

スタイルというデザインの領域の一部にしかすぎない部分に捕われるのではなく、モノづくりの全ての工程(調査・情報収集から金型まで)を調整する工業デザイナーが、今後求められるデザイナー像であり、これを実現することがビジネスチャンスにつながると考える。

 

このコラムはJIDA 「ID FRONTIER21 DESIGN CONFERENCE」の
掲載内容を加筆したものです。

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