〔コラム〕災害とデザイン

なにをなすべきか、いかになすべきかのみを考えていたら、 
なにもしないうちに10年が経ってしまうだろう。

ーJ・W・フォン・ゲーテ

災害とデザインを考えるようになって数年が経つ。
私自身、少年時代に伊勢湾台風の被災者となり、近所の人や知り合いを亡くした経験をもっている。生活基盤が、再建を出来ず、村を去った人もいた。私自身の事だが、家族と離れて生活しなければならなくなった。その時、災害によって、精神的、物理的なさまざまなことが、好むと好まざるに関らず、時間と共にめまぐるしく変化しながら、大小の哀歓を持って、たえまなく複雑に押し寄せることを経験した。

災害は、風水害、雷、地震、火山噴火等の自然災害と食中毒、ガス中毒、崩壊・破壊・落下、自動車・船舶災害、人身事故、原子力施設関係災害などの人工災害にわけられる。しかし、最近の自然災害は、人工的誘発によってひき起こされた災害といわれ、さまざまな分野の専門家によりジオカタストロフィ「地球の破局」が言われだした。

このまま自然破壊・環境汚染を続けていくのであれば、「地球の破局」は時間の問題であるといわれている。この問題を避けるためには、どうしたらよいのかを多くの人が論じている。

1975年、中国、湖南省の雲夢県で2000年以上前の秦代の地層より多数の竹簡が発見された。そこに環境対策の構想について記述があった。

「春二月、樹木を切り、水道を塞いではならない。夏の前に、草を焼いて灰にし、芽を出した植物を採り、幼獣を狩り、鳥の卵を取り、雛鳥を捕らえてはならない。魚鼈を毒殺し、鳥獣を捕る網や罠をしかけてはならない」とあり、環境破壊に対して警告をしている。 しかし、先人の警告に耳をかさず、今日まで環境破壊を繰り返し、人工的誘発による災害を起こしてきた。人間の活動によってもたらされた災害であれば、人間によって回避できるはずであると私は信じたい。

地球以外生活することが出来ない地球人

科学技術が発達し、高度に情報化した現代社会は、国を越えシステムが相互に密接に関連しあい、ネットワークを構築している。産業活動においても、経済や情報の国際化と同様に一国だけの活動ではなく常に他国と連動している。そのなかで、環境問題を考えるとき、原材料の活用、リサイクル、廃棄などの問題を地球レベルの考え方で捉えなければならない。国際的な規定を決め、商品の材質を表示する事を義務づけるなどの取り組みをすれば、リサイクルも可能になる。海や大気を共有する地球環境は、同次元で進めなければ安全な地球は取り戻すことはできないと考える。

日本は、世界でも有数の木材輸入国である。丸太では半数近くの49.6%、製材では9.0%を輸入している。輸入木材のうち、約15%が熱帯林から伐採した木であり、それらの90%は東南アジアからのものである。東南アジアでは、毎年日本の面 積の半分の森林が失われ、さらにその半分が砂漠化している。砂漠化による耕作面 積の減少に加え、人口増加がおこり、森林は成長量の数倍の速さで失われる。このままでは100年以内に熱帯地域の森林は全滅し、砂漠化、地上生物は死滅するといわれている。熱帯地域の砂漠化は、気象異常を生み、やがて日本にも影響する。複合的な連鎖反応による災害が起こるのである。

提案

輸入木材利用の一例として、物流用パレットで捉えてみた。
日本で、物流用パレットに加工され、輸送商品を積み、コンテナやトラックなどで全世界に流通 する。一部は日本から東南アジアに輸出品と共に現地に帰るが、東南アジアからパレットを利用した輸出製品がなければ使用されずに野積みされ、朽ちていくものもある。パレットとしてリサイクルされるが、素材としてのリサイクルはされていない。


もし、物流用パレットが、その役目を終えたとき他の商品に再利用できる素材で造られていたならば、資源の有効利用になると考える。
たとえば、流通 パレットを合紙パレット(別図)や紙管パレットにすれば、紙や段ボールへ再利用が可能となる。ここでは物流システムの構築に加え、モノそのものデザインと素材の生涯性をデザインする行為がデザイナーの役割であると言える。

災害を規範にデザインを考えるとき、デザインの役割は、大きく変わりつつある。
今、新たにデザインの役割を問い直し、新しい価値の創出をしなければならない。

まず第一に、資源の活用法や環境への配慮、ものづくりを関わる諸問題に対応するとともに素材のライフタイムと再利用を含むプロセスデザインと新しいモノのかたちの価値の創出という役割である。モノの使いやすさや美しさの追求に専門的能力を発揮し続けることは勿論のことである。

そして、第二に、災害が発生した時、安全・安心を提供する「備え」のデザイン研究と災害から回避するために何をしなければならないかの「予想・予測」のデザイン研究である。この研究には、さまざまな業界の専門家の協力を得ることが必須である。それぞれの専門の知恵をコーデイネートする役割がデザイナーの新たな仕事と考える。重要な点は、発想時から素材の厳選、災害をひき起こさない安全・安心を手に入れるためにひとりひとりが知恵をだし合うことである。言い換えれば、デザイン職能としての役割は、多くの産業に関る情報を個人の英知から組織や連帯の英知としてのシステムづくりを考えるところにある。

これらのシステムづくりをしっかり根付かせることが21世紀に渡るデザイナーの責務ではないかと私は考える。
21世紀は、デザイナーにとって創造者として活躍する時代かも知れない。


このコラムはJIDA 「ID FRONTIER21 DESIGN CONFERENCE」の掲載内容を加筆したものです。 1999年3月執筆

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